2018年:国際交流委員会:スタディツアー(実施報告)

2018年日本学校教育学会スタディツアー

-東アジアの学校教育の探求(中国の馬鞍山市・南京市)-

会長 佐々木幸寿

はじめに

2018年の日本学校教育学会スタディツアーが2018年12月26日(水)~12月30日(日)の日程で、中華人民共和国の馬鞍山市、南京市を中心に行われた。ツアー全体のコーディネーターを中山博夫国際交流委員会副委員長(目白大学教授)、現地コーディネーターを牛志奎国際交流委員会委員(馬鞍山師範高等専科学校教師教育系教授)に務めていただき、現地の小学校、中学校等の学校訪問、行政機関訪問、南京師範大学教育科学学院との研究会など、大きな成果を上げて帰国することができた。

参加者した10名の訪問団は、大学研究者、高校教員、博士課程学生、修士課程学生など、総合学会である本学会の特性を反映した構成であった。学校訪問、学術研究交流においては、参加者からは様々な視点からの発表や意見交換がなされ、本学会にとっても、各会員にとっても、有意義なスタディツアーとなったものと思われる。

Ⅰ 学術研究交流を中心としたスタディツアーへの転換

2018年度のスタディツアーの最大の特徴は、現地における研究者、学生との合同研究会を開催したことである。

【南京師範大学と日本学校教育学会の合同研究会】

 合同研究会では、はじめに、張新平南京師範大学教授から心のこもった歓迎の挨拶があった。その後、本学会から、佐々木幸寿(東京学芸大学)、林尚示会員(東京学芸大学)、牛玄会員(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(博士課程))、周勝男会員(兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科(博士課程))が発表し、南京師範大学からは、程晋宽教授(南京師範大学)、叶忠教授(南京師範大学)、顾秀林氏(南京師範大学博士課程学生)、李华氏(南京師範大学博士課程学生)が発表した。その後、研究発表に基づいて質疑応答、意見交換を行った。

 本学会における海外スタディツアーにおいては、はじめての本格的な学術交流であり、相互の研究の発展に大きく寄与する内容であった。本学会は、2019年から第二の学会機関紙として「年報」を発行することとなっている。スタディツアーにおける研究会活動の成果を新たに発行される年報に反映させていくことで、本学会の研究活動はさらに大きく発展するものと思われる。

 また、この合同研究会の内容については、南京師範大学のホームページにおいて大きく報じられるなど、南京師範大学にとっても大きな意義を持つものであったことが示唆されており、大学や学会において学術交流のもつインパクトの大きさを改めて感じた。以下の南京師範大学のホームページのURLを記載するので、是非参照していただきたい。(URL:https://mp.weixin.qq.com/s/V9cJTWiGy4CQWMigUUJR2w


【南京師範大学における研究協議に参加した研究者、博士課程学生】

Ⅱ 大きく変化する中国の学校教育を知る

 今回のスタディツアーでは、南京暁荘師範学院付属小学校、馬鞍山市第八中学校、馬鞍山市四村小学校の3つの学校を訪問した。いずれの学校においても、教師の指導意欲、児童生徒の規律が高く維持されており、授業に集中している様子が見られた。また、授業内容も高度で、優れた指導法を採用するなど、授業展開の効率と児童生徒のパフォーマンスの高さが印象的であった。

【馬鞍山市四村小学校における4年生英語のハイレベルな実践的授業】

【陶行知の思想を生かした教育活動を展開する南京暁荘師範学院付属小学校】

【馬鞍山市第八中学校において高度に展開される少年宮活動について説明を受ける】

それぞれの学校において印象に残った特徴について述べる。馬鞍山市四村小学校においては4年生英語の授業を参観した。英語の実践力に重点をおいて教育活動が展開されており、教師の指導レベル、児童の英語能力は、一般的な日本の小学校と比較して非常に高度な水準にあるように思われる。学校教育の成果であるだけでなく、塾など家庭の教育への投資も影響しているものと推測される。

また、南京暁荘師範学院付属小学校では、近代中国の教育家である陶行知の思想を生かした教育活動を展開していた。陶行知は、1927年南京郊外に暁荘師範学校を設立し、経験主義的な教育を行ったが、同校では、陶行知の考え方を継承し、時代に合わせた形で、芸術活動、科学技術教育などにも力を入れた教育を展開している。

馬鞍山市第八中学校においては、高度に展開されている少年宮の活動が印象的であった。少年宮とは、中国の各地に設置されている子供たちの課外活動用の施設で、近年は学校内に設置されており、正規の授業以外にも、科学教育、芸術活動などさまざまな活動に利用されている。第八中学校では、指導者の水準が高く、また、広い活動場所や展示スペースをもうけるなど施設も充実していた。

Ⅲ 教育行政機関の訪問

 馬鞍山市の雨山区教育局を訪問する機会を得た。鞍山市の教育行政は、市の教育行政当局の統括の下に、4つの区教育局が位置づけられている。区教育局は、小学校、中学校を所管している(高等学校は、市レベルで所管している)。

 教育局の教育行政の方針に基づいて、新たな幼児教育施策、素養教育(思想、道徳等)や学力の重視、知徳体のバランスを重視した教育施策を展開していることなどが説明された。

【童教育局長から教育行政の仕組み、教育方針等について説明を受ける】

Ⅳ 2018年のスタディツアーを振り返って

 日本学校教育学会におけるスタディツアーは、東アジアを中心に多くの国や地域を訪問してきた。本学会において、現地を訪問し、学校教育や教育行政の現状に触れることは、学会活動や会員による研究活動、学校における教育実践に非常に大きな意義をもたらしてきたと言える。

 本学会における長年にわたって実施してきたスタディツアーにおいて、2018年の馬鞍山市、南京市への訪問は、大きな転換点となるものであるように思われる。南京師範大学との学術交流において、研究者、博士課程学生が自身の最新の研究成果を報告しあい、熱心に議論が展開された。合同研究会後には、先方の研究者、博士課程学生からも交流の継続を望む声が寄せられた。このことは、本学会に対して、重要な課題を投げかけているものと思われる。学術交流の導入は、本学会の基本的理念である「理論と実践の往還」に応える研究や実践を、国際的な水準で発信し続けることが求められることを意味しているということである。そのためには、本学会の海外における本格的な活動の展開に向けて、海外に会員のネットワークを形成していくこと、その拠点となる人材、教育研究機関を確保していくことが必要となるものと考えられる。